背景・経緯

「東北メディカル・メガバンク計画」は、東日本大震災で未曽有の被害を受けた被災地の復興支援のための事業です。総務省、厚生労働省が関与する被災地での地域医療情報連携基盤の構築のための事業と密接に連携しながら、医療人を被災地に派遣し、地域医療の復興に貢献するとともに、被災地の方々の健康調査を継続して実施し、結果等をお返しすることで、参加者の健康向上や地域の健康づくりに役立てて頂きます。さらに、健康・診療・ゲノム等の調査や解析結果の情報と提供頂いた生体試料とを関連させたバイオバンクを構築するとともに、創薬研究や個別化医療の基盤を形成し、将来的に得られる成果を被災地の住民の方々に還元することを目指す事業です。

この事業は、平成23年6月の東日本大震災復興構想会議等において、村井宮城県知事から政府に対して要望があったものですが、被災地の復興に必要な事業として、「東日本大震災からの復興の基本方針」(平成23年7月29日東日本大震災復興対策本部)、「日本再生の基本戦略」(平成23年12月24日閣議決定)に掲げられました。

「東北メディカル・メガバンク計画」には、地域住民の方々のゲノムコホート研究が含まれますが、この計画以前より、わが国のゲノムコホート研究は、現行法並びに国の倫理指針等に基づいていくつかの研究が実施されております。例えば、日本多施設共同コホート研究(ジェイミックスタディ)は2005年から開始され約8万人の方々が研究に参加されています。他にも国立がん研究センターの大規模分子疫学コホート研究、福岡県の久山町研究、滋賀県のながはま0次予防コホート事業、山形県の山形分子疫学コホート研究などがあり、わが国の多くのゲノムコホート研究の経験を有しています。また、わが国におけるバイオバンク事業にはバイオバンク・ジャパンがあり、子供を対象とするゲノムコホート研究には、浜松母と子の出生コホート研究などもあります。これらの先例より、ゲノムコホート研究とバイオバンクの構築はわが国の健康長寿社会の実現、すなわち次世代個別化予防の実現化のための必須の課題と位置付けられていました。

岩手医科大学は閣議決定後、文部科学省と東北大学より説明を受け、参画の是非を議論してきましたが、平成24年4月より開始された、「東北メディカルメガバンク計画検討会」で、岩手県の被災地の医療支援を目的に本事業への参画の意思を表明しました。

「東北メディカル・メガバンク計画検討会」は、本事業で東北大学と岩手医科大学が共同で実施する被災地域を対象とした15万人規模の住民ゲノムコホート、ゲノム情報等の解析の実施計画案について検討し、文部科学省や実施機関等へ提言を行うことを目的として、文部科学省に設置されたものです。検討会では、平成24年4月、5月に計5回に亘って、東北大学と岩手医科大学の実施計画案についてヒアリングが行われ、その後、実施計画の更なる具体化を進める上での留意すべき事項等について提言を頂きました。

この提言の中では、本事業の意義を以下のように説明されています。「今般、未曾有の大震災により、我が国は甚大な被害を受けるとともに、数多くの尊い人命が失われ、未だ仮設住宅での避難生活を余儀なくされている方々もいるという痛ましい経験をすることになった。本事業では、被災地への医療関係人材の派遣、健康調査の結果の回付による健康管理への貢献により、被災地の復興に貢献することが喫緊の課題である。また、地震・津波により甚大な災害を受けた地域を対象とし、その影響を本計画のごとく大規模に追跡するコホート調査は世界でも類を見ない取組であり、特色あるプラットフォームが他地域に先駆けて整備されることで、我が国における将来的な次世代医療の実現や新産業創出のために貢献しうるものである。」

この提言を受けて、9月に文部科学省東北メディカル・メガバンク計画推進本部で「東北メディカル・メガバンク計画 全体計画」の策定がなされ、その年次計画に基づき事業が開始されました。まず、平成24年10月から、本事業実施にあたって専門的・中立的な観点から助言を得るために、地域医療支援、ゲノムコホート連携、ゲノム・オミックス解析、倫理・法令、バイオインフォマティクス・人材育成といった論点ごとに、全国の第一人者である有識者の方に参加頂くWGで中間取りまとめをして頂き、具体的な分野(住民コホート調査、三世代コホート調査、ゲノム・オミックス研究)に関する調査研究計画の策定を完了し、健康調査の平成25年9月からの本格的実施を決定致しました。

 中間とりまとめ

 

また、平成25年5月、岩手医科大学と東北大学は、両大学間の強力な連携を図り、事業の円滑な実施・運営を担う運営協議会を設置しました。

岩手医科大学では、平成24年7月に「いわて東北メディカル・メガバンク機構」を設置し、地域医療支援、ゲノムコホート調査、ゲノム・オミックス解析、人材育成などの活動を通じて実施しております。岩手県と被災地を中心とする本事業の健康調査対象地域の20市町村の首長や保健行政関係機関に、本事業への協力のお願いを行うとともに、シンポジウムの開催やチラシやニュースレターの配布などを通じて、地域の住民の方に本事業の意義をご理解いただけるよう広報活動を行っております。

平成25年より、被災地域を中心とした地域住民の健康調査を実施し、結果回付や健康相談などを通じて健康向上に取り組んでおります。

平成27年からは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の発足に伴い、東北メディカル・メガバンク計画はAMEDの統括の下進められています。

平成28年からは、これまでの東北メディカル・メガバンク計画推進本部と推進委員会に代わり、AMEDおよびそこに設けられた東北メディカル・メガバンク計画プログラム推進会議が計画の推進を担っています。また、AMEDが進めるゲノム医療実現推進プラットフォーム事業の推進にも貢献しています。

「東北メディカル・メガバンク計画」は、第1段階(平成23~28年度の6年度)、第2段階(平成29~令和2年度の4年度)を経て、令和3年度より第3段階を開始しました。

今後、「いわて東北メディカル・メガバンク機構」は本事業の取り組みが、真に被災地域の医療復興と新たな地域医療の実現のための基盤形成に繋がるよう最大限の努力を果たしてまいります。

 

 東北メディカル・メガバンク計画 第3段階 全体計画(令和3年4月)