遺伝情報回付と遺伝的リスク回付

岩手医科大学と東北大学が行う東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査では、参加者の方々からご提供いただいた血液からDNAを抽出し、その配列を解読するゲノム解析を行っています。このゲノム解析の結果は、研究だけでなく、参加者それぞれの健康に役立つことがあります。

遺伝情報回付

ゲノム解析の結果を個別にお伝えすること(回付といいます)は、事業開始当初の日本では前例のない取り組みでした。そのため、私たちは2015年に遺伝情報等回付検討委員会を設立し、慎重な検討を重ねながら着実に遺伝情報回付事業を進めています。

私たちは、まず初めに少人数の方々を対象に、状況を丁寧に確認しながら進めるパイロット研究(試験的な回付)を2016年から開始しました。回付を行う対象疾患には、医療的な予防法、治療法があり早期からの対応が健康に直結する家族性高コレステロール血症、特定の医薬品への反応性、遺伝性腫瘍を選定しました。パイロット研究では、単なる解析結果の開示のみにとどまらず、遺伝カウンセリングを行い対象者お一人おひとりへの説明と、受診が必要と思われる方にはご本人のご意向を伺いながら医療機関への紹介を実施しました。

これらのパイロット研究の概要は以下からご覧になれます。

  対象 期間 人数 関連論文

詳細

第一回 家族性高コレステロール血症* 2016/10~2020/3 196名 Kawame et al., J. Hum. Genet. 2021 成果報告
第二回 医薬品の反応性** 2019/10~2024/3 161名 Ohneda et al., JMA 2022 成果報告
第三回 遺伝性腫瘍** 2020/9~2024/3 6名 Ohneda et al., Breast Cancer 2022 成果報告

* 家族性高コレステロール血症の遺伝情報回付:両大学共同実施
** 医薬品の反応、遺伝性腫瘍の遺伝情報回付:東北大学にて実施

パイロット研究の結果を踏まえ、2022年から5万人を対象として遺伝性腫瘍に関する遺伝情報回付事業を開始し、その後も対象者を拡大して回付を継続しています。

関連論文:Ohneda et al., J. Hum. Genet. 2025成果報告

事業開始までの検討の詳細については、遺伝情報回付事業の背景と経緯をご覧ください。

遺伝的リスク回付

私たちは、遺伝情報回付を検討する中で、最初はひとつの遺伝子に生じた変化(変異)が原因となる病気・体質(単一遺伝子疾患といいます)を対象として遺伝情報回付の経験と実績を蓄積しながら、将来的には、多因子疾患(複数の遺伝子などが発症に関わる疾患)の回付を目標としました。

 糖尿病や高血圧などの生活習慣病や太り易さなどの体質は、複数の遺伝子が関わっています。単一遺伝子疾患の遺伝情報回付では、原因遺伝子に生じた変化の有無を回付するのに対して、多因子疾患は、発症に関わる数十から数百万の複数個所の遺伝情報をもとにリスクを計算しそれを回付します。

 私たちは、多因子疾患の遺伝的リスク回付について遺伝情報等回付検討委員会において慎重に検討しながら、遺伝診療部門を持つ全国の医療機関を対象に多因子疾患の遺伝的リスクの臨床応用に関する認識を調査するパイロット研究を行いました。これらの検討とパイロット研究を踏まえ、2023年から脳梗塞を対象とした遺伝的リスク回付を実施しています。

内容 期間 対象と人数 関連論文 詳細
多因子疾患の遺伝的リスクの臨床応用に関する意識調査(パイロット研究) 2020/9/29~10/31

医療従事者
508名

Tokutomi et al., Genes 2023

成果報告

日本語版ゲノム知識尺度の開発 2022/2

一般成人
463名

Yoshida et al., Genes. 2023 成果報告
脳梗塞の遺伝的リスク回付 2023/4~継続中

一般成人
2,088名

Yoshida et al., J. Epidemiol. 2026 成果報告

 

関連動画:脳梗塞や糖尿病など、いわゆる生活習慣病と呼ばれる身近な病気の遺伝的リスクについて解説します。遺伝要因と環境要因の関係、リスクの捉え方など。

【身近な病気】多因子疾患の遺伝的リスクと環境リスク
(岩手医科大学YouTubeチャンネルへ移動)

遺伝情報等回付検討委員会

遺伝情報等回付検討委員会は、岩手医科大学と東北大学が構成する東北メディカル・メガバンク計画推進合同運営協議会のもとに設置され、両大学以外に所属する委員長と、10名程度の委員から成ります。

本委員会では、個々の回付事業の計画・研究の手順・説明文書・進捗などについて両大学から報告しつつ議論が行われています。

委員会名簿、および委員会の議事概要は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)のホームページにて公開しています。