機構長あいさつ

被災復興から予防医学を創造する

いわて東北メディカル・メガバンク機構
機構長 丹野 高三
(衛生学公衆衛生学講座 教授)

いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と連携・協力し、ゲノムコホートとバイオバンクを大きな2本柱とする東北メディカル・メガバンク計画を運営するため、平成24年度(2012年度)に岩手医科大学災害復興事業本部の下に開設されました。当機構では、初代機構長 祖父江憲治先生、第2代機構長 佐々木真理先生のもとで、東日本大震災・津波に伴う健康影響の評価、一人ひとりの体質に合わせた予防や治療(個別化予防・個別化医療)の開発を目的として、平成25年度(2013年度)から現在まで、岩手県の沿岸被災地域を中心に健康調査(地域住民コホート調査)を行ってまいりました。改めて、調査にご協力いただいた3万2000名を超える皆さま、ならびに、ご支援いただいております自治体、健診機関、医療機関、医師会など、数多くの皆さまに心より感謝申し上げます。

私どもはこれまで、東日本大震災・津波に伴う健康影響について、被災後に社会的孤立や心の健康の不調、肥満やメタボリックシンドロームなどが増えたことを報告しました。一方、被災の程度に関わらず、被災後の死亡率に差がないことを明らかにし、大規模自然災害後の医療や公衆衛生活動の重要性を改めて確認しました。今後も被災後長期の健康影響を評価し、大規模自然災害後の健康増進に役立つ情報を発信してまいります。

もう一つの柱であるバイオバンクについても着実に実を結びつつあります。健康調査にご協力いただいた皆さまの生体試料や情報を大切に保管し、厳格な審査のもとで研究機関や企業などに分譲したり、共同で研究を実施する仕組み(バイオバンク)を、ToMMoと共に構築、運用しております。当機構独自の取り組みでは、生活習慣病、特に脳梗塞の遺伝的な「かかりやすさ」を得点化し(ポリジェニックリスクスコア)、これまでより予測能力の精度を高めました。現在、この結果に基づいて、より有効な脳梗塞の予防方法を開発する研究を進めております。また、遺伝情報のスイッチ(エピゲノム)に着目し、そのスイッチの切り替えによって健康に長寿を全うされている方々の特徴を明らかにしました。さらに国内の複数のゲノムコホート研究と連携して、36万人を超える方々のデータを用いて遺伝情報と病気の関連を解析する基盤を整えました。これらの研究成果や研究基盤を用いて、これからも日本人の病気を予防し、健康長寿に役立つ研究を推進してまいります。

私たちが目指しているのは、未病(病気でない)段階で病気を予防する方法や病気が軽い段階で早めに発見して早めに治療する方法を開発し、皆さまに広めることです。東日本大震災・津波からの復興は一歩、一歩、着実に進んでおります。私たちも、一歩、一歩、被災復興から予防医学を創造し続ける道を歩んでまいります。今後とも皆さまのご協力、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。